The Side Readers

Side readers : 05「蠱毒」(中)

前回のお話はこちら

あてどなく街を歩くF.A.N.Gに、少女が声をかける。
貧しいなりをした少女の瞳にF.A.N.Gは過去を思い出す......

蠱毒(中)

大哥おにいさん......」

 女の声がした。

 男は足を止める。街灯の陰になった細い脇道の入り口に、女が立っていた。殺し屋と並ぶ、人類最古の職業。世界のどこにもある光景。この国の法では全面的に禁じられているにも関わらず、春をひさぐ女の姿は、そう珍しいものでもない。だが彼女は、女と呼ぶには若すぎた。

 少女は上目遣いに男を見つめていた。貧しい身なりをしている。痩せた肩に、はかなさがあった。化粧気のない頬に、慣れのない愛想笑いが浮かんだ。

「おにいさん、お金ある?」

 マッサージだと、決まり文句を口にする。黒い大きな瞳を、男は黙って見返した。

 誘いに乗ったのは、多分に男の気まぐれだった。毒手の男が身に帯びた毒は、その精にすら及んでいる。男にその種の欲望はなかった。

 ただ、微かなひっかかりがあった。まっすぐに見つめてくる黒い瞳が、男の何かを捉えていた。見たことのある目だった。男が忘れてしまった誰かの目だった。

「......こっちよ」

 少女が手招きして、先に立って進む。現代的なビル群から景色が一変していた。急激すぎる経済成長が生んだ歪み。地方から経済都市へと流入し、仕事にあぶれて行き場をなくした貧しい人々の暮らす区画。無機的で人工的なハイテク看板の光が届かない、都市の暗がりだった。

 廃ビルを思わす建物に、少女は男を招き入れる。あり合わせの布で適当に区切られたフロアの一角が、彼女の仕事場のようだった。薄暗い照明の下で、安っぽいベッドのシーツが、死んだ魚の腹のように白い。

 くすっ。

 部屋に入ったきり、動かないでいる男に、少女が笑いかける。

「一晩中そうやって突っ立っているつもり?」

 侘しく寒々しい部屋に、ささやきは甘く響いた。それは、客の求めを熟知した老獪な女の声だった。自分の年齢に特別な価値があると知っている幼い声だった。何もかも理解して演じる女優で、正真正銘の妖精ニンフの声だった。

 男は思い出す。少女の瞳に男が見いだしたもの。甘い声の響きの裏にあるもの。それが何だったのかを。

 はかなげな少女の美しさは、強さを秘めていた。

 その強さは、毒の持つ強靭さだった。

 少女の黒い瞳。あれは、かつての自分たちの目だった。

 毒手となるべく共に修行した、きょうだいたちの目だった。



 ......男は、ある一族に育てられた。伝説的な巫術師の一派にあって、兇手ころしやとなるため選ばれた子供たちの一人だった。貧しく、生に飢えた子供だった。

 体術。武器の扱い。あらゆる毒の知識。古き暗殺の技はもちろん、機械や情報工学まで。暗殺者であるための、実践的な技能を徹底的に叩き込まれた。何より重要視されたのが、毒物への耐性だった。

 毒に耐えるのは、毒のように暗くしぶとい生命の強さだった。毒を食っても生き抜くという執念だった。限界を超えた修練を耐え抜くには、毒のごとき強靭な意思が必要だった。

 子供らの多くが脱落し、命を落とした。長い修行を終えたのは、男と、他三人の子供だけだった。地獄を共に生き抜いた四人には、血よりも濃い絆が生まれた。四人はきょうだいだった。毒使いとして選び抜かれた四人は、一族のエリートだった。きょうだいたちは、男の誇りだった。



「......おにいさん」

 少女がいって、男は現実に引き戻される。

 まっすぐに男の目を見ながら、少女は服を脱ぐ。透き通る肌が、侘しい明かりの下に浮かび上がった。男は身動き一つしない。

 抱擁を求めるように両腕を拡げて、少女が男に近づく。一歩、また一歩。

 その時、部屋を仕切った布の間に、人影が動いた。

「はい、そこまで」

 姿を現したのは、少年だった。手にしたスマートフォンを、男に向けて構えている。

「悪いな、叔叔おじさん。撮影させてもらったよ」

 少女の兄ほどの年齢か、少年はいっぱしの悪ぶった笑いを浮かべる。

「知ってると思うけど、こういうのは違法だぜ」

 その上、相手が子供なのは外聞が良くないだろう。少年はスマートフォンをひらひらと振って見せる。

「SNSに流してもいいし......、当局に証拠として提出してもいいんだけど......。おじさん、どうする?」

 美人局。仕掛けは悪くないが、脅す相手を間違えていた。どのデータベースに照会されても、男の身元が割れることはない。男は公式には、どこにも存在しない人間だった。

「く......」

 男は小さく笑う。拙い犯罪者を始末するのは、簡単なことだった。男の毒が、二つの小さな身体を文字通り骨まで消すのに、数分あればいい。だが、男はそうしなかった。無謀な脅しを試みる相手に、またも気まぐれを起こした。

 空気が変わった。男の手が、いつの間にかポケットの外に出ていた。魔法で取り出したかのように、札の束と短剣とが、それぞれの手にあった。

 無造作に、男はその二つを床に投げる。床に短剣が突き立って、鋭い金属音が長く余韻を引いた。気をのまれたような少年に、男は低く告げる。

 「......選べ」


【 音量を調整してお楽しみください 】

※メッセージは1件のみ保存できます。

Use Twitter to communicate with other Dojo members, and challenge other fighters to a battle! A great way to sharpen your skills!

CLOSE

The Dojo is a place where like-minded SFV fans can join forces.
All you need to do is to log in to the C.R.I. to join!

  • With detailed search settings, you can find groups of all sorts of players, from casuals, to serious players, and more! Join forces with people who use the same character, or are in the same league, and work together to improve your skills!

  • Can be linked with your Fighters ID and Twitter account, giving you quick ways to communicate!

  • You can use the Dojo stage simply by joining a Dojo! Note: The Dojo stage in-game can contain aspects customized by the individual player. An individual's Dojo stage cannot be customized by anyone else, including the Dojo Master and other Dojo members.

  • The Dojo stage can be customized with items obtained in-game, and through Menat's Fighting Chance! Surprise your opponent with your own personalized stage, start the mind games before the round even begins!

  • You will accumulate Dojo Points as you regularly play SFV! * Dojo Points can be obtained from playing the Arcade, Survival, Extra Battle, Ranked Match, Casual Match, and Battle Lounge game modes.
    * In one day, DP can only be obtained a maximum of 10 times for the Battle Lounge, per each difficulty in Arcade and Survival Modes, and by the total calculation of draws/losses in Ranked and Casual Matches.

  • The Dojo Ranking is calculated from the total Dojo Points from all the Dojo members. Work together with your friends to increase your Dojo ranking!

  • Dojos that earn the top ranking spot will get special Dojo items! Display them in the Dojo and show off to your opponents! Dojo Rankings will begin from October, 2018!

You must log in in order to utilize this Dojo.

In the basic settings, set the Join Authorization to "Not Needed," Join Requests to "Accepting," and the Maximum No. of Members to "100," and you can get a wide range of members! The more members, the bigger the chance you have to get a lot of Dojo Points!

Be strict with your desired league and LP ranking settings to gather similar members, and work together to polish your skills! A direct path to realizing your dreams!

An excellent method to increase communication opportunities. Speaking with your fists isn't the only way get your point across!