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傘が語る大きな雨音

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2025.12.26

バイオハザードと音楽の記憶|内山修作/Shusaku Uchiyama

背後から忍び寄る何者かに気づいた男が恐怖に駆られて叫び声を上げながら後ずさる──
B級ホラー映画さながらの実写映像から始まるこの作品は、カットが切られた静止画の背景の中を3Dモデルのプレイヤーキャラクターが
おどろおどろしいクリーチャーと戦い謎を解いていくという、当時あまり見たことのないタイプのゲームで、プレイする人々をゲームに没入させる強力な力を持ったものでした。

このゲームが制作されていた1995年頃、入社したばかりでテーブルゲームに向けたポップな曲を書いていた私の横で奇妙な音を鳴らしているチームが作っていたのがこのサバイバルホラーというあまり聞いたことのないジャンルのゲームでした。

さらに映像を深く知るために、今回特別に映像を制作したスタッフの方にメールインタビューしてみました。ぜひご覧ください!

不協和音、重苦しい低音、そして時折混じるノイズ
それらは、従来のゲーム音楽とはまったく異なるものでした。
カプコンでは、それまで『ストリートファイター』や『ロックマン』など爽快感やスピード感を重視したアーケードライクな作品が中心でしたが、
『バイオハザード』は、プレイヤーに“考える時間”を与える作品でした。
扉を開けるたびに訪れる緊張、限られた弾薬と回復アイテム、そして何より、どこに敵が潜んでいるかわからないという不安──
それらすべてが、プレイヤーの五感を刺激し、ゲームという枠を超えた“体験”を提供していたのです。

2000年代初頭、この作品のリメイク版を制作することになり改めて原作を何度も繰り返しプレイし直す中で、その音楽の完成度に驚かされました。
ホラーというジャンルにおいて、音楽は単なる背景ではなく、プレイヤーの感情を操る“もう一つの演出”として機能します。
この作品の楽曲は、音数こそ少ないものの、その一音一音が鳴る場面の情景や登場人物のセリフを鮮明に呼び起こす力を持っていました。

たとえば、静寂のホールに響く寂しげな女性のクワイアは、プレイヤーに「何かが起こるかもしれない」という予感を与えます。
遠くから聞こえる足音は、敵の存在を暗示し、突如として鳴り響く緊迫したリズムとストリングスは、プレイヤーの心拍数を一気に引き上げます。
それらの音は、単なる効果音ではなく、物語の一部として機能していたのです。

あれから30年が経ち、映像技術も音響表現も格段に進化しました。
現代のゲームは、まるで映画のような没入感を提供するようになり、リアルタイムレンダリングによる美麗なグラフィックや、立体音響による空間表現が当たり前になりました。
しかしながら、この第1作が放ったインパクトは、いまだに多くのファンの心に残り続けています。
私自身もこの作品を超える衝撃を受けたタイトルにはなかなか出会えていません。

『バイオハザード』第1作は、物語、映像、音楽、演出、謎解きやアクション、すべてが一体となってプレイヤーに“恐怖”という感情を体験させる、
原点であると同時にすべてが詰まっていて、ゲームというメディアが持つ可能性を広げた作品でした。

この作品に関わったすべてのクリエイターが「恐怖とは何か」「音楽で何ができるか」を問い続けた結果生まれた奇跡のようなタイトル。
そしてそれは、今もなお、私たちの創作の原点として、静かに、しかし確かに息づいています。





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